モジュラーシンセを始めるのに、最も悩ましいのが 「ケース」。
Eurorack 規格を提唱した Doepfer をはじめ、4ms、Pittsburgh、Intellijel 等のモジュラーシンセメーカーや、SynthRacks、MDLRCASE といったケースを専門とするメーカーからも多種多様なケースが発売されています。選択肢が多いことは大変に喜ばしいことですが、いかんせんどれも決して安くはないですよね。大抵の方なら、ケースに投じる資金があるならそのお金でモジュールを買い足したい … と考えると思いますし、ましてやこれからモジュラーシンセを始めようとしている方にとっては尚更でしょう。
この記事では私のケース遍歴を紹介しつつ、自作に至る経緯やこれまでに得られた情報等を紹介してゆきたいと思います。
私自身、ケース云々以前にモジュラーシンセを理解していなかったため、興味はあってもなかなか手が出せませんでした。そんな中、Sound & Recording Magazine の2015年11月号の特別企画「DAW の制作環境にプラスα ! モジュラー・シンセ導入計画」で Richard Devine 氏の記事を参考に、Yahoo! オークションにて Tiptop Audio の Happy Ending Kit を入手してモジュールを揃えてゆきました。
Happy Endding Kit はケースと言うよりか、電源モジュール付きの 3U フレームで、ラックケース等に収めないとモジュールの背面と電源を供給するバスケーブルがモロ出しになってしまいます。ただその分価格が抑えられているため、浮いた予算をモジュールへまわせるようになります。
Happy Endding Kit は 84HP ですが電源モジュール分の 4HP が既に埋まっているので、実質空きは 80HP となります。シンセサイザーの基本要素(Oscillator, Envelope / LFO, Filter / Low Pass Gate, VCA, Mixer 等)だけに限ってみれば、モジュラーシンセを始めるには十分な空きスペースかと思います。しかし、レコードや CD、カセットテープ等のコレクション癖があったり、GIZMO-MUSIC さんや Boutique Pedal NYC さんで取り扱われているようなブティックペダルやガジェット楽器好きな方なら、モジュラーシンセはハマる傾向があると思うので(ソースは私)、すぐに次のケースが必要になるのでは?と思います。
Tiptop Audio Happy Ending Kit の次に購入したのが Intellijel 4U ケースでした(Synthrotek や Pulp Logic の 1U Tile モジュールを使用してみたかった、という理由で選んだのですが、これらと Intellijel 1U には互換性がないことを知ったのは後になってからでした … )。
しかしラックは買い増やせても、設置スペースには限りがあります。モジュールさえ増やさなければ良いのですが、私の性分上それは無理そうなので、限られたスペース内でもある程度モジュール収容量を拡張して行けるようにケースを自作してみることにしました。
自作のノウハウや工具類を一切持ち合わせていなかったので、手始めにタカチ電機工業のレールを利用した 42HP 1段の簡易ケースを製作してみました。
・FFR 型フロントレール FFR-22N
・BN 型バーナット BN22-M3
パネル資材には3ミリ厚の白色アクリル板を選びました(木材を選ばなかったのは表面の仕上げが面倒そうだったからです)。強度を求めるなら5ミリ厚が良いかもしれませんが、42HP 1段ならそこまで強度は必要ないでしょう。そして電源には Yahoo! オークションで入手した HIKARI 製のものを使用しました。
アクリル板の加工は初めてだったのですが、3ミリ厚とは言え、専用のカッターで切断箇所を削るのは思いの外時間が掛かります。塗装や切断面の始末を端折ったりネジ穴位置の計測ミスもあり、工作精度は低いものの何とか仕上げることが出来ました。モジュールのファームウェアアップデートや自作キットモジュールの動作確認に使える作業用ケースとして重宝しています。
次に製作したのは Intellijel 4U ケースを載せられるようにした 104HP 3U のケースです。Intellijel のケース上下背面には M3 スクリュー/ナットを挿入できる溝が用意されています。自作ケース側に M3 スクリュー/ナットを付けて、Intellijel のケースとジョイントさせてみることにしました。
設計ポイントとしては、モジュール面をスラントさせること、下部にスプリングリバーブタンク等を収容出来るスペースを確保すること、Intellijel のケースとのジョイント部分を用意すること、の3点です。スラントさせることで切断箇所が2箇所、下部スペースのためにパネルの切断数が1枚増えます。アクリル板の切断は地味に面倒なのでやめようかとも思いましたが、Intellijel のケースを載せた際の安定性を考えて面倒でもスラントと下部スペースは実装することにしました。
このケースでは Tiptop Audio の Z-Rail を採用しています。Z-Rail は常に品薄状態なのですが、たまに Five-G さんに中古が入荷することもありますので自作派の方は要チェックですね。
画像には写っていませんが、電源には dot Red Audio Designs の電源モジュール (POWERBASE) と電源バスボード (POWERRAIL) がセットになっている POWERKIT を採用しました。dot Red Audio Designs は日本のメーカーということもあり、製品クオリティは勿論のこと、パッケージ、取扱説明書もしっかりしていました。またサポートも手厚く、私の採寸ミスが原因だったにも関わらず、初歩的な問題にも丁寧に応じてもらえました。
次回は MDF で制作したケースについて書いてみようと思います。