ユーロラックモジュラー キャリングケース事情(2017)

ユーロラックモジュラーを始めるにあたり、何かと敷居を高くしているケースですが、昨今選択の幅が広がってきているように思えます。価格面では多少こなれてきた感もあり、自作の方が安く上がるとは一概に言えない場合もあります。私個人、プランニングや実際の制作こそが費用面以外の自作ならではの楽しみ・メリットと考えていますが、そういった手間や時間はモジュール選びや実際の操作に充てたいと考える方は多いと思います。

また、ユーロラックモジュラーを用いたライブが開催されることが多くなってきており、自身のシステムを屋外へ持ち出したいという方も増えてきているのではないでしょうか? そこでこの記事では現時点(2017年)で利用可能な製品の中から、キャリングケースに焦点を当ててまとめてみました。

Tiptop Audio:Mantis

Tiptop Audio Mantis
Tiptop Audio Mantis

製品ページ:Mantis

プラスティック筐体なため、アルミや木製のケースに比べると精悍さや重厚感はありませんが、Tiptop Audio の最近のモジュールと同様なカジュアルなテイストは、これまでのユーロラックモジュラーのケースにはなかったデザインです。

スペック面では、3U スペースが 208HP(104HP ×2)、許容電力は 3A@12V (バスボード上に記載された3つのセクションそれぞれ最大 1A)、1.1A@-12V、300mA@5V。キーヘッダー数が36個なので、Erica Synths の Pico シリーズや 2hp のような省スペースモジュールのマウントも余裕でこなせそうです(-12V と 5V の許容電力が若干心許ない気がしなくもないですが …)。

Mantis はキャリングタイプのケースではないのですが、別売りのトラベルバッグを併用すれば持ち運びも可能になります。ただし、Mantis には上蓋等が用意されておらず、またトラベルバッグは Mantis 本体分の容積しか確保されていないようなので、パッチングした状態での持ち運びは出来ないようです。

以下はメーカーによる Mantis の製品紹介ムービーです。

Pittsburgh Modular:Structure Eurorack Case

Structure EP-208
Structure EP-208

製品ページ:Travel Case EP-208 / EP-360

Structure シリーズには、据え置き型の「Studio Case」とキャリングケース型の「Travel Case」があります。Travel Case は、生産終了となっている「Move Case」の後継ラインに相当するものと思われます。

ケース外装は Move Cases シリーズと同様な、手作業による美しいステイン処理がなされ、ブラックスチールのハードウェアパーツのマッチングもあいまって、非常に高級感溢れる仕上げとなっています。

Structure EP-360
Structure EP-360

EP-208 のスペックですが、3U スペースが 208HP(104HP ×2)。許容電力は 4A@12V 、3A@-12V、2A@5V。キーヘッダー数は40個となっています。そして EP-360 の方は、3U スペースが 360HP(120HP ×3)。許容電力は 6A@12V 、6A@-12V、5A@5V とハイパワーで、キーヘッダー数は60個となっています。

両モデルともアナログ及びデジタルユーロラックモジュールの要求を十二分に満たすことのできる電源が供給出来るよう設計された強力な産業用電源が採用されており、高品質な電源環境を外出先でも利用することが可能です。

現行のキャリングタイプのケース中では、堅牢性、電源品質、デザインに最も優れた製品ではないでしょうか。

Erica Synths:Travel Case

Travel Case (Plywood)
Travel Case (Plywood)

製品ページ:Travel Case Plywood / Aluminum

プライウッド製は、3U スペースが 208HP(104HP ×2)。許容電力は 2.5A@12V、2.5A@-12V、1A@5V。キーヘッダー数は36個となっています。

Travel Case (Aluminum)
Travel Case (Aluminum)

そしてアルミ製は、3U スペースが 208HP(104HP ×2)。許容電力は 1.5A@12V、1.5A@-12V、0.5A@5V。キーヘッダー数は60個(!)となっています。

個人的に 208HP でこの許容電力にはキーヘッダーの数が多過ぎると思うのですが、これは同社の Pico シリーズのマウントを想定しているからなのかもしれません。ちなみにアルミ製はプライウッド製と比べ、薄型となっていて、加えて25%軽量化がなされているとのことです。

どちらのタイプも、同社の真空管を採用したモジュールの Fusion シリーズ用 6VAC 電源供給に対応しており、Fusion シリーズ専用のコネクターが6個用意されています。

Intellijel Designs:7U Performance Case

Intellijel 7U (84HP)
Intellijel 7U (84HP)

製品ページ:7U Cases

84HP と 104HP の2サイズ展開。アノダイズ処理されたアルミ仕上げでスタイリッシュな仕上がりが印象的なキャリングケースです。Enclave や Elite Modular のようなミリタリーグレードの衝撃コーティングが施された黒ベースの外装とは違った趣がありますね。

スペック面では、104HP の方は 3U スペースが 208HP(104HP ×2)、1U スペースが 104HP。バスボードに TPS80W MAX を採用していて、許容電力が 3A@12V, 3A@-12V, 1.5A@5V 、キーヘッダー数は28個となっています。

Stealth Edition
Stealth Edition

そして84HP の方は 3U スペースが 168HP(84HP ×2)、1U スペースが 84HP。バスボードは TPS30W MAX / TPS80W TYPE A・TYPE B の3タイプから選べるようで、許容電力は TPS30W MAX が 1.5A@12V, 1.5A@-12V, 1A@5V、TPS80W TYPE A・TYPE B が 3A@12V, 3A@-12V, 1.5A@5V で、キーヘッダー数は20個で共通です。

同社の 1U ユーティリティモジュールシリーズの Audio I/O 1U と μMIDI 1U をフラットケーブルで接続できるインターフェースが用意されており、PA や DAW とのラインレベルシグナルのやり取りや、MIDI デバイスとの同期がシームレスに行えます。

オプションとして、2台の 7U Performance Case を連結させるためのジョイントパーツ、ギグバッグが用意されています。また 104HP の方には「STEALTH EDITION」という黒ベースの別バージョンも用意されているようです。

trogotronic:Collier Case

Trogotronic m168
m168

製品ページ:m168 / m336(2017/11/10 削除)/ m420

m168 は Pulp LogicSynthrotek からリリースされているランチボックスタイプのような外観のケースです。

スペック面では、3U スペースが 168HP(84HP ×2)。バスボードは同社の m15 を採用していると思われます。m15 の許容電力ですが、メーカーサイトを見る限りでは、12V と 5V レールへの供給は両レール合算で 5A を上限としており、その内 5V レールには 1A のリミットが設けられているようです。-12V レールは 5A まで供給可能で 、キーヘッダー数は30個となっています。

trogotronic m336
m336(生産完了品)

m336 は SKB のポップアップラックケースのような、ラックフレーム部分がチルト可能なケースです。

スペック面では、3U スペースが 336HP(84HP ×4)。バスボードは m168 と同様に m15 を採用していると思われます。12V, -12V, 5V のトータル 10A 上限を標準仕様としていますが、オプションで 12V, -12V, 5V のトータルが 20A の構成も選択可能なようです。キーヘッダー数は 10A / 20A 共に60個で共通となっています。(2017/11/10 削除)

本記事執筆時には m336 は現行機種だったのですが、現在では生産完了となっているようです。後継モデルというわけではないと思いますが、m168 をスケールアップさせたような筐体の m420 がリリースされています。(2017/11/10 追記)

m420
m420

スペック面では、3U スペースが 420HP(105HP ×4)。バスボードは m168 と同様に m15 を採用していると思われます。12V, -12V, 5V のトータル 10A 上限を標準仕様としていますが、オプションで 12V, -12V, 5V のトータルが 20A / 30A / 40A の構成も選択可能なようです。キーヘッダー数は60個で共通となっています。(2017/11/10 追記)

真空管を採用したモジュールを多くリリースしているメーカーだけあって、許容電力は他のケースのそれを圧倒していますね。

以下はメーカーによる m168 の製品紹介ムービーです。

今回の記事では比較的有名なメーカーに限定したラインナップでまとめてみましたが、個人による製品も挙げてゆけば、選択肢はより増えると思います。例えば、ハンドメイド作品を数多く扱っている「Etsy」でもユーロラックモジュラーケースを見付けることが出来ます。

個人製作ゆえの僅少な在庫状況に左右されることは多いですが、Etsy 内を「eurorack」で検索してみると、据え置き型も含め色々なケースが見付けられると思います。日本への発送に対応してくれる製作者も増えてきているので、利用してみては如何でしょうか?