前回の記事では、Tiptop Audio Happy Ending Kit 〜 Intellijel 4U 104HP Case を経て自作 3U 104HP ケースに至る経緯を紹介しました。この自作ケースでは素材に3ミリ厚のアクリル板を採用しましたが、1枚あたりの単価が決して安くありません(320×545ミリ:¥2,580/枚) 。最終的にケースそのものは用途に合ったものを作れたのですが、104HP を1段を作るだけと考えると時間 (主に裁断時間) とコストが掛かり過ぎで自作するメリットは半減してしまったと感じました。
その後もモジュールは増え続け、自作 3U 104HP ケースは全て埋まってしまいました。そんな時に、木製ケースのオーダーを受けてくれる某工房を Yahoo! オークションのサイトで見付け、早速 104HP × 2段のケースの見積もりと製作を依頼しました。104HP のレールを用意が出来ないとのことでしたので、Clock Face Modular さんから Tiptop Audio Z-Rails を2組購入してこちらを組み込んで頂きました。やり取りがとてもスムーズで諸々の対応も早く、製作は1週間ほどで完了・納品となりました。が、届いた製品は実に残念な完成度 … 使用する気が全く起きず、そのまま手放してしまいました (正確には Z-Rails も含め返品対応して頂きました)。
104HP × 2段のケースの導入を前提にモジュールをいくつか注文していたので、また自作か … と悩んでいたところ、Tiptop Audio Mantis の国内流通 (Clock Face Modular) が始まり、これに飛び付きました。プラスティック筐体なため、スチールや木製のケースに比べると精悍さや重厚感はありませんが、Tiptop Audio の最近のモジュールと同様なカジュアルなテイストのデザインは、これはこれで好印象でした。許容電源は 3A@12V (バスボード上に記載された3つのセクションそれぞれ最大 1A)、1.1A@-12V、300mA@5V、キーヘッダー数は36個と充実なスペックに反して価格は抑え目です。リリース当初は世界的に品薄状態が続きましたが、現在では落ち着いてきているようです。その後、専用のキャリングバッグもリリースされましたね。
Mantis の導入で、当面はケースについて考えなくても良い日々が続くと思っていたのですが、えちごやミュージックさんサイトの中古品ページを何気なく覗いてみたところ、Make Noise CV Bus Case を見付けてしまいました。Shared System を購入する他に入手する方法はなく、単体で CV Bus を入手できる機会はそうありませんので、ケースを設置するスペースはもうないのですが、Mantis をリプレイスすることにして購入に踏み切りました。
こうして、空き HP を確保し、念願の CV Bus も導入出来たのですが、今度はシステムの見映えが気になってきました。Make Noise CV Bus 7U Case が Enclave 製の重厚感のある黒に対し、Intellijel 4U 104 HP Case のシルバー、DIY 104HP Case の白色がとてもちぐはぐな感じがして何とも気持ち悪いのです。加えて、今後の拡張を考えた時、Intellijel 4U 104 HP Case の追加、あるいは DIY 104HP Case の再作製の二択しかないのも不便だったので、新たにケースを製作することにしました。
今回の製作では前回の反省を活かし、加工の容易さと材料費を重視して100均ショップのダイソーで販売されている MDF を利用することにしました。他の100均ショップ(Seria, キャンドゥ等)にも同様な商品はありそうですが、1辺が30センチ以上の大きなサイズはダイソーでしか見つけることが出来ませんでした。
レールは Tiptop Audio Z-Rails ではなく Vector 製のレールを採用することにしました。Vector 製のレールは UK の DIY モジュラーシンセキットの販売サイト Thonk や Synthrotek 等で購入が可能なのですが、どちらも品薄状態が定常化していて購入が難しいです。他に取り扱いがないのか調べて見たところ、海外のパーツショップの Digi-Key Electronics と Mouser Electronics で購入が可能でした。
どちらも販売の拠点は海外なのですが、日本にカスタマーサービスが存在するようで、販売サイトも日本語対応されており、日本円での支払いにも対応しています。Digi-Key Electronics に関しては、銀行振込先に三井住友銀行を選ぶことも出来ます。送料に関してはどちらも日本円で¥6,000以上購入すると無料となります。利用内容にも依りますが、Vector 製レール 84HP を4本+ 必要数のM2.5 スクエアナット(またはバーナット4本)の注文で¥6,000以上にはなりますので、ことケース製作に限って言えば送料は考えなくても大丈夫かと思います。配送は非常にスムーズで、Digi-Key Electronics で銀行振込を選択した場合、どういう訳か送金前に発送してくれました。
最後に電源ですが、今回は Malekko Heavy Industry の Power というバスボードを採用してみることにしました。このバスボード、キーヘッダー数は22個ですが許容電源が 2A@12V、2A@-12V、1A@5V となかなかハイパワーです。22個のキーヘッダーは4つのグループ(A〜D)に分けられており、例えばデジタル系のノイズの多いモジュールはAグループ、アナログ系はB〜Dグループといった構成にすることで、B〜DグループのモジュールはAグループからのノイズの影響をより少なくすることが可能となります。
音質と動作の面でとても興味深い製品なのですが、電源アダプタは付属しておらず電源供給モジュールが製品として用意されていないため、インストールガイドに推奨品の記載はあるものの、バスボード以外全てを自前で調達する必要があるのが少々面倒ではありますね。
こちらのバスボードですが、国内での取り扱いはありません(2017年4月現在)。Perfect Circuit Audio と Boutique Pedal NYC では取り扱いがあるようです。
今回のケースに関しては「なるべく手間暇掛けずに」をモットーに設計しました。前面に2段階の傾斜を設けるのをやめたり、背面に関してもダイソーの MDF 板1枚で覆える部分(30センチが上限)のみとし、覆っていない部分は通風口と捉えることにしました。
実際の製作ですが、想像以上に MDF が扱い易く、採寸から切断までがアクリル板のそれに比べてかなりスムーズでした。接着はクランプを用いて一晩置いてしっかり乾燥させました。仕上げについては、サンディングシーラー等で研磨はせず、水性スプレー(ツヤ消し黒色)で直接塗装してしまっています。研磨をしていないせいなのか MDF だからなのかわかりませんが塗料のノリが悪いように感じました。一応2回に分けて塗っています。研磨の工程を省かずにしっかり時間を掛けて仕上げれば MDF でも質感をアップできるようなので、クオリティーを追求する方はこだわってみて下さい。
そして個人的に一番の懸念点だった電源周りですが、この手の経験が全くなかったので試行錯誤の連続でした。そもそも購入したパーツは本当に正しかったのか? 配線ってこれで合ってるの?? と自問自答しながら慣れないテスター片手に何とか通電まで辿り着きました。素人の下手な組み立てが原因で接続したモジュールが全てお釈迦になる可能性もあるわけですから、無茶な製作だったなぁ … と後になってつくづく思いました。
完成してみて気付いたことなんですが、312HP に対してキーヘッダー数が22個は少なかったかも、そして上下段左右端に設置のモジュールがバスボードに少々遠かった、と思いました。所有モジュールに HP の広いものが多いので何とか収まりはしましたが、Erica Synths の Pico シリーズや 2hp のような省スペースモジュールを多くマウントすることは難しそうです。
最後に今回製作したケースの材料ですが、一覧にすると以下になります(MDF ボードとバスボード以外の価格は2017年3月時点のものです)。
- MDF ボード:ダイソー 60*30センチ(¥200×3)
- レール:Vector ‘TS209‘ – T-STRUT 20.85″X1″ FOR CARD RACK(¥1,371×6)
- スクエアナット:Vector ‘NT4-7PA‘ – NUT SQUARE T-STRUT 4-40 25/PKG(¥930×6)
- バスボード:Malekko Heavy Industry ‘Power ‘($229)
- 電源アダプター:Mean Well ‘GST90A15-P1M‘(¥3,480)
- ロッカスイッチ:ZF ‘SRB22A2FBBNN‘(¥115)
- 圧着端子:TE Connectivity / AMP ‘640905-1‘(¥54×4)
- DC 電源コネクタ:Switchcraft ‘712A‘(¥261)
- フックアップワイヤー:TE Connectivity ‘400R0111-16-9‘(¥12/フィート×2)
- その他:タッピングねじ(レール固定用)、スペーサー(バスボード固定用)
結果的には¥40,000近く掛かってしまっていますが、システムに見合ったケースになりましたし、アクリル板ケースとは違った製作経験も得られたので、自分的には満足度は高いものになったと思っています。