ユーロラックモジュラーシンセを使う理由

ユーロラックモジュラーシンセへ

過去にモジュラーシンセへの憧れだけで KORG MS-20 を、何となくアナログシンセを … ということで Spectral Audio ProToneDoepfer MS-404Roland SH-2 を購入してみたことがありました。どれも音に個性があり、個体としての魅力を感じながらも短期間で手放してしまいました。

シンセサイザーの音作りの基本(VCO, VCF, ENV, VCA 等の機能)は理解していましたが、それを思い通りにできなかったというよりも、操作の過程と結果にどこか期待外れのようなものを感じました。所謂「シンセサイザー」で実現できることと、自分のしたいことにミスマッチがあったんでしょうね。

そういう経緯もあり、自分も諸々の懸念が払拭できずユーロラックモジュラーシンセの導入に二の足を踏んでいた一人でした。そんな時に、Make your eurorack modular case !(1)の記事でも記載していますが、自分はサンレコの特集記事に背中を押されました。記事の中で Richard Devine 氏が、氏自身の提案したスターターセットについて各モジュールのポイント等をコンパクトに言及されていました。個人的な所感ではありますが、初心者向けの非常にバランスの良いセットアップなのではないかな、と思います。この特集のおかげで、何が出来そうなのか?何から揃えるべきなのか?という点では、取っ掛かりが得られたと思います。

My First Set Up
最初のセットアップ

その後 Tiptop Audio の Happy Ending Kit を中古で入手し、Clock Face Modular さんの商品ページ(サイトコンテンツの “How to Modular” や “Modular Words” も参考にさせてもらっていました)を読みまくり、ひたすらモジュールを選んでゆきました。

自分のセットアップイメージは、外部入力のシンセサイズをメインに考えていたので最終的には以下のような構成となりました。

  • Tiptop Audio Z3000 mk2(VCO)
  • Mutable Instruments Shelves mk2(VCF)
  • Intellijel μVCA II(VCA)
  • Mutable Instruments Peaks(LFO / Envelope … etc ※ 製造中止がアナウンスされました)
  • Intellijel Audio Interface II(Balanced Signal I/O)
  • Mutable Instruments Clouds(Granular Delay)
  • Malekko Heavy Industry MIX 4(Mixer)

Elektron Analog Keys を所有していたので、初めは VCO と LFO / Envelope は対象から外していましたが、Z3000 mk2 はチューニングに便利そうなのと、Peaks はLFO / Envelope 以外のモードがあってトリガーを出せたりリズム音源にもなるので別用途でも重宝しそう、ということでシーケンサーモジュールだけを対象から外しました。ちなみに Peaks には Dead Man’s Catch という代替ファームウェアが存在するようです。

サンレコの特集記事で紹介されていたモジュールのほとんどが当時 Sold Out だったこともあり、当初候補に挙げていたモジュールのほとんどは揃えることができませんでした。そういうこともあり購入は海外のショップを頼ることも多かったのですが、おかげで国内に入ってきていないブランドの情報をたくさん得ることができました。

ちなみに購入先ですが、国内では専ら Clock Face Modular さんを利用させて頂いてます。取扱ブランド数、商品知識で群を抜いていると思います。海外だと PerfectCircuit AudioControl を主に利用していて、前者は取扱ブランドとその商品点数、ディスカウントクーポンのサービス、後者は新製品・中古商品の入荷の多様さが魅了でしょうか。どちらも送料自動計算、PayPal 決済に対応していてストレスなく購入が出来ます。たまに Analogue Haven を使用することもありますが、まだショッピングカートシステムが送料自動計算に対応していないので(メールでの送料確認のやり取りが必須)、このショップでしか取扱がないものに限って利用するようにしています。

使ってみて思ったこと

ここまでを踏まえて、冒頭で挙げた4つの利点についてもう少し具体的に考えてみます。

  1. 世界共通の規格(ユーロラック)で統一されていること
    無駄なスペースを取らない。セッティングにまつわる諸々の煩わしさから解放される。
  2. 扱うシグナルが電圧のみ(オーディオレートも含む)でシンプルなこと
    やりたいことが(またはやる気はなかったことも)直感的に直ぐ試せる。
  3. モジュール間のシグナルのルーティングが柔軟であること
    → 極端な話(求める結果が得られる接続かどうかは別として)、シグナルの出入口だけ意識すればどのようにパッチングしても良い。
  4. モジュールの選択肢とそれらの組み合わせ・用途がバラエティに富んでいること
    異なるスタイル(東海岸 = Moog、西海岸 = Buchla 等)を機能単位で自由に選択・組み合わせが可能。

まず何と言っても 「1. 世界共通の規格(ユーロラック)で統一されていること」で、サイズの面で幅(HP 数)以外は全て共通というのはセッティングの面で非常に有利です。モジュールが増えれば当然スペースは必要になりますが、(HP とキーヘッダーの空きがある限り)ケース内でセッティングの全てが完結できるというのは自分にはとても大きなメリットです。

「2. 扱うシグナルが電圧のみ(オーディオレートも含む)でシンプルなこと」は、シンセシスという観点において、LFO や AM / FM はユーロラックモジュラーシンセに限ったものではないですが、次の「3.モジュール間のシグナルのルーティングが柔軟であること」と併せて捉えると、信号経路が内部で固定されてしまっている単体機材と比べ、音作りの自由度は(ユーザのクリエイティビティ次第で)飛躍的に跳ね上がります。

Mordax DATA
Mordax DATA

もちろん単体機材の組み合わせでこそ得られるものもあるのですが、自身で組み上げたシステムの様々な機能(=モジュール)にパッチケーブルだけでアクセス可能というスピード感は、単体機材のそれでは得難いメリットだと思います。

ちなみに、扱っているものが電圧なので、それがどういう状態なのかを可視化できるオシロスコープ機能を持つモジュールが1つあると便利です。代表的なモジュールとしては Dave Jones Design O’Tool PlusMordax DATA でしょうか。Mordax DATA はオシロスコープ機能の他に、デジタルオシレーターやクロックディバイダーマルチプライヤーも実装されていますので、観測・測定だけでなく制作の場面でもとても重宝します。

Buchla Easel-k
Buchla Easel-k

最後の「4. モジュールの選択肢とそれらの組み合わせ・用途がバラエティに富んでいること」ですが、モジュールを選んでいる時に一番感じたのは、東/西海岸のスタイルの違いによるシンセシスのアプローチの仕方でした。これまで自分が理解していたシンセシスは東海岸のスタイルだけだったので、ウェーブシェイパーローパスゲート(LPG)、タクティクルインターフェース(Buchla Easel-k 等)といった機能はとても新鮮でした。

Moog のオシレータ、KORG MS-20 のフィルター等と言うように、とかく「個体の特徴(価値)」の側面で語られることの多い東海岸スタイルの機種とは異なり、モジュールをパッチングで自在に組み合わせて「自身の個性(音)」を追求、アピールできるのが西海岸スタイルの良いところなのではないかと思います。

先に「操作の過程と結果にどこか期待外れのようなもの」と書きましたが、今思えばその時の感覚は、自分が求めていたものは VCO → VCF … といった基本波形をフィルターで削る東海岸スタイルのお決まりのシンセシスではない、という(本人には自覚のない)気付きによるものだったのかもしれません。